第3章 Σの性質と計算

「分けて、公式、くくって整理」— Σ計算の型を、1手ずつ動く式変形で身につけよう。

社会でどう使う?

線形性は、データを「分けて集計し、あとでまとめる」考え方です。売上を商品別に分ける、費用を固定費と変動費に分ける、アンケート結果をグループ別に集計するなど、分析の基本操作につながります。

1Σの性質(線形性)

Σはただの「足し算のまとめ書き」なので、足し算の順番を入れ替えてよいという当たり前の事実から、次の2つの性質が成り立ちます。

📘 Σの性質
$$\sum_{k=1}^{n}(a_k + b_k) = \sum_{k=1}^{n}a_k + \sum_{k=1}^{n}b_k \qquad \sum_{k=1}^{n} c\,a_k = c\sum_{k=1}^{n}a_k \;(c\text{ は定数})$$

たとえば $n=3$ で確かめると:

$$ \sum_{k=1}^{3}(k^2+k) = (\textcolor{#4c6ef5}{1^2}+\textcolor{#f08c00}{1})+(\textcolor{#4c6ef5}{2^2}+\textcolor{#f08c00}{2})+(\textcolor{#4c6ef5}{3^2}+\textcolor{#f08c00}{3}) = \underbrace{(\textcolor{#4c6ef5}{1^2}+\textcolor{#4c6ef5}{2^2}+\textcolor{#4c6ef5}{3^2})}_{\sum k^2}+\underbrace{(\textcolor{#f08c00}{1}+\textcolor{#f08c00}{2}+\textcolor{#f08c00}{3})}_{\sum k} $$

青の項とオレンジの項を「並べ替えてグループ分け」しただけ。これが線形性の正体です。

⚠️ やってはいけない変形

「積」や「商」はバラせない!

$$\sum_{k=1}^{n} a_k b_k \;\ne\; \left(\sum_{k=1}^{n}a_k\right)\left(\sum_{k=1}^{n}b_k\right)$$

反例:$\displaystyle\sum_{k=1}^{2}k\cdot k = 1+4 = 5$ だが $\left(\sum_{k=1}^{2}k\right)^2 = 3^2 = 9$。

2計算の型:「分けて・公式・くくる」

例題1:$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(k^2+k)$ を計算せよ。

「▶ 次のステップ」を押しながら、変形を1手ずつ追いかけよう。

お題
$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(k^2+k)$
STEP 1
$\displaystyle=\sum_{k=1}^{n}k^2 + \sum_{k=1}^{n}k$
線形性で「2乗の和」と「1乗の和」に分ける
STEP 2
$\displaystyle=\frac{n(n+1)(2n+1)}{6} + \frac{n(n+1)}{2}$
それぞれ基本公式③②を適用
STEP 3
$\displaystyle=\frac{n(n+1)}{6}\Bigl\{(2n+1) + 3\Bigr\}$
共通因数 $\frac{n(n+1)}{6}$ でくくる(展開するより速くてミスが減る!)
STEP 4
$\displaystyle=\frac{n(n+1)(2n+4)}{6} = \frac{n(n+1)(n+2)}{3}$
$2n+4 = 2(n+2)$ を約分して完成。きれいな積の形!
✅ 計算の型
  1. 分ける — 線形性で $\sum k^2$、$\sum k$、$\sum c$ に分解
  2. 公式 — 基本公式①〜④を代入
  3. くくる — 展開せず、まず共通因数(多くは $\frac{n(n+1)}{2}$ や $\frac{n}{6}$)でくくって整理

3例題2:中身を展開してから分ける

例題2:$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(2k-1)^2$ を計算せよ(奇数の2乗の和)。

お題
$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(2k-1)^2$
STEP 1
$\displaystyle=\sum_{k=1}^{n}(4k^2-4k+1)$
まず中身を展開する(2乗のまま公式は使えない!)
STEP 2
$\displaystyle=4\sum_{k=1}^{n}k^2 - 4\sum_{k=1}^{n}k + \sum_{k=1}^{n}1$
線形性で3つに分ける。最後の $\sum 1$ を忘れずに
STEP 3
$\displaystyle=4\cdot\frac{n(n+1)(2n+1)}{6} - 4\cdot\frac{n(n+1)}{2} + n$
公式を適用($\sum_{k=1}^{n} 1 = n$ に注意。「1」ではない)
STEP 4
$\displaystyle=\frac{n}{3}\Bigl\{2(n+1)(2n+1) - 6(n+1) + 3\Bigr\}$
共通因数 $\frac{n}{3}$ でくくる
STEP 5
$\displaystyle=\frac{n(4n^2-1)}{3} = \frac{n(2n-1)(2n+1)}{3}$
中身を整理:$4n^2+6n+2-6n-6+3 = 4n^2-1$。因数分解して完成
⚠️ 頻出ミス
  • $\sum(2k-1)^2$ を $\left\{\sum(2k-1)\right\}^2$ にしてしまう(2乗はΣの外に出せない)
  • $\sum_{k=1}^{n}1$ を「$1$」にしてしまう(正しくは $n$)
  • 展開時の符号ミス:$(2k-1)^2 = 4k^2-4k+1$($-4k$ の係数に注意)

4下端が 1 でないΣ

基本公式は「$k=1$ スタート」専用。$k=m$ から始まる和は、「全体」から「前半」を引いて作ります。

📘 下端をずらす公式
$$\sum_{k=m}^{n}a_k = \sum_{k=1}^{n}a_k - \sum_{k=1}^{m-1}a_k$$

引くのは「$m-1$ まで」。$m$ まで引くと、残したい $k=m$ の項まで消えてしまう!

:$\displaystyle\sum_{k=5}^{15}k = \sum_{k=1}^{15}k - \sum_{k=1}^{4}k = \frac{15\cdot16}{2}-\frac{4\cdot5}{2} = 120-10 = 110$

5仕事で使う文章題 — マーケター編

マーケターは、日別・広告別・キャンペーン別の数字を合計して判断します。ここでは「文章をΣに直す」ことを意識して、広告運用の数字を扱ってみます。

考え方

仕事では、数字が表の形で渡されることが多いです。Σは「何日目の数字を、どのルールで、どこまで足すか」をはっきり書くための記号です。

仕事 1広告費の合計
ある広告キャンペーンでは、1日目に 10,000円、2日目に 12,000円、3日目に 14,000円、… と、毎日 2,000円ずつ広告費を増やした。 10日間の広告費の合計はいくら?
$$\sum_{k=1}^{10}\{10000+2000(k-1)\}$$
答え:
💡 ヒント$10000$ は10回足される。増加分は $2000\sum_{k=1}^{10}(k-1)$。
📖 解説

$$\sum_{k=1}^{10}\{10000+2000(k-1)\} = 10000\cdot10 + 2000\sum_{k=1}^{10}(k-1)$$ $k-1$ は $0,1,2,\dots,9$ なので合計は $45$。よって $$100000 + 2000\cdot45 = 190000$$ 10日間の広告費は 190,000円。

仕事 25日間全体のCVR
ある広告では、$k$ 日目のクリック数が $100k$ 回、購入数が $5k$ 件だった。 5日間全体のCVR(購入数合計 ÷ クリック数合計)を百分率で求めよう。
$$\text{CVR}=\frac{\sum_{k=1}^{5}5k}{\sum_{k=1}^{5}100k}\times100$$
答え: %
💡 ヒント購入数合計は $5\sum k$、クリック数合計は $100\sum k$。同じ $\sum k$ が約分できる。
📖 解説

$$\frac{\sum_{k=1}^{5}5k}{\sum_{k=1}^{5}100k} = \frac{5\sum_{k=1}^{5}k}{100\sum_{k=1}^{5}k} = \frac{5}{100}=0.05$$ 百分率では $0.05\times100=5$。よって5日間全体のCVRは 5%。

6練習問題

練習 1正しい性質はどれ?
次のうち、常に正しいものはどれ?
💡 ヒントΣでバラせるのは「足し算・引き算・定数倍」だけ。
📖 解説

線形性(和と定数倍)だけが常に成立。積・2乗・逆数はバラせない。 たとえば $a_k=b_k=k$、$n=2$ で他の選択肢を検算すると、すべて左辺と右辺が食い違う。

練習 21次式の和
$\displaystyle\sum_{k=1}^{8}(2k+3)$ の値は?
答え:
💡 ヒント$2\sum k + \sum 3$ に分ける。$\sum_{k=1}^{8}3 = 3\times8$。
📖 解説

$$\sum_{k=1}^{8}(2k+3) = 2\cdot\frac{8\cdot9}{2} + 3\cdot8 = 72+24 = 96$$

練習 32次式の和
$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(3k^2-1)$ に等しいものはどれ?
💡 ヒント$3\sum k^2 - \sum 1 = \dfrac{n(n+1)(2n+1)}{2} - n$。ここから $\dfrac{n}{2}$ をくくり出すと…($n=2$ を代入した検算も有効:$(3\cdot1-1)+(3\cdot4-1)=13$ になるはず)
📖 解説

$$3\sum_{k=1}^{n}k^2 - \sum_{k=1}^{n}1 = \frac{n(n+1)(2n+1)}{2} - n = \frac{n}{2}\{(n+1)(2n+1)-2\} = \frac{n(2n^2+3n-1)}{2}$$ $n=2$ で検算:$\frac{2(8+6-1)}{2}=13 = (3-1)+(12-1)$ ✓。 「$-1$」のままの選択肢は $\sum 1 = n$ を忘れた誤答。

練習 4下端が1でない和
$\displaystyle\sum_{k=5}^{15} k$ の値は?
答え:
💡 ヒント$\sum_{k=1}^{15}k - \sum_{k=1}^{4}k$。引くのは「4まで」!
📖 解説

$$\sum_{k=5}^{15}k = \frac{15\cdot16}{2} - \frac{4\cdot5}{2} = 120 - 10 = 110$$ $\sum_{k=1}^{5}k=15$ を引いてしまうと 105 になり、$k=5$ の項が消えてしまう。

練習 5正しい分解はどれ?
$\displaystyle\sum_{k=1}^{n}(k+1)^2$ の正しい変形はどれ?
💡 ヒントまず $(k+1)^2 = k^2+2k+1$ と展開。最後の「$+1$」は $n$ 回足される。
📖 解説

$$\sum_{k=1}^{n}(k+1)^2 = \sum_{k=1}^{n}(k^2+2k+1) = \sum k^2 + 2\sum k + \underbrace{\sum_{k=1}^{n}1}_{=\,n}$$ 定数 1 も「$n$ 回足される」ので $+n$。$+1$ にするのが最頻出ミス!